2分間の足止めを越えて——
世界記録保持者・山西利和、地元名古屋で守り抜いたアジア大会銀【2026年】
2026年9月23日、愛知・名古屋アジア競技大会の陸上競技が開幕し、最初の種目となった男子ハーフマラソン競歩で山西利和(愛知製鋼)が1時間28分01秒で銀メダルを獲得しました。陸上競技における日本勢のメダル第1号です。レース中盤に3枚目の警告を受け、ペナルティゾーンで2分間の待機を強いられながらも、2位の座は最後まで譲りませんでした。ハーフマラソン競歩の世界記録保持者が地元で見せた粘りのレースを、経歴と合わせて読み解きます。
この記事でわかること
男子ハーフマラソン競歩(2026年9月23日・名古屋)
| 順位 | 選手(所属・国) | 記録 |
|---|---|---|
| 1位(金) | 石升吉(中国) | 1時間23分32秒 |
| 2位(銀) | 山西利和(愛知製鋼・日本) | 1時間28分01秒 |
| 4位 | 吉川絢斗(富士通・日本) | 1時間29分28秒 |
出典:月刊陸上競技(月陸Online)、スポーツニッポン、時事通信の報道(2026年9月23日)。3位の記録は本記事では割愛。
世界記録(1:20:34)からの差
出典:世界記録は日本陸上競技連盟(2026年2月15日・日本選手権ハーフマラソン競歩)、名古屋アジア大会の記録は月刊陸上競技・スポーツニッポンの報道。差は各記録から算出。
①名古屋のコースで何が起きたか
愛知・名古屋アジア大会の陸上競技は9月23日から29日までの7日間。その幕開けとなった男女のハーフマラソン競歩は、午前7時30分に男女同時スタートで行われ、名古屋市役所周辺に設定された周回コースが舞台となりました。
月刊陸上競技の報道によると、レースは最初の1kmが4分06秒というスローな入り。3km付近から中国の19歳・石升吉が仕掛けて集団を崩し、山西は5kmを19分44秒で通過するまでこれに食らいつきました。しかし9km過ぎから徐々に引き離され、12km〜13km手前付近で3枚目の警告(レッドカード)を受けて、ペナルティゾーンで2分間の待機を課されます。その間に石との差は大きく開き、石が1時間23分32秒で優勝。山西は2位を守り切り、1時間28分01秒でフィニッシュしました。同じく日本代表の吉川絢斗(富士通)も10km付近で3枚目の警告を受け、1時間29分28秒の4位でした。
レース後、山西は「アップダウンや追いかけていくかどうかでバタついたところが審判に見えていたかも」と警告を受けた場面を振り返り、「悔しいレースでした。これを持ち帰って次に向かいたい」と語っています(スポーツニッポン/Yahoo!ニュース配信)。また月刊陸上競技の報道では、ペナルティを受けた後について「2位をキープするのが使命」と話したと伝えられています。
なお女子ハーフマラソン競歩では、柳井綾音(富士通)が1時間39分24秒で4位に入っています。
POINT
競歩では4枚目の警告で失格となるため、3枚目を受けた時点で「あと1枚で終わり」という状況に追い込まれます。2分間立ち止まったうえで、残り約8kmを「攻めつつも崩さない」歩きで2位を守ったことが、この銀メダルの価値です。
②山西利和のこれまでの歩み
山西利和は1996年2月15日生まれ、京都府長岡京市出身の30歳。京都市立堀川高校では当初3000mの選手でしたが、在学中に競歩へ転向しました。高校時代の2013年には世界ユース選手権(ドネツク)10000m競歩で金メダルを獲得しています。
進学先は京都大学工学部物理工学科。学業と競技を両立しながら、2017年のユニバーシアード(台北)20km競歩で金メダルを獲得しました。2018年にはジャカルタ・アジア大会20km競歩で銀メダル。その後は2019年ドーハ世界選手権で金、東京2020オリンピックで銅、2022年オレゴン世界選手権で金(連覇)と、日本競歩界の第一人者として国際大会で結果を積み重ねてきました。
近年は記録面でも突き抜けています。2025年2月には20km競歩で1時間16分10秒の世界記録を樹立。さらに国際大会の実施種目が20kmからハーフマラソン(21.0975km)へ変更された2026年、2月15日の日本選手権ハーフマラソン競歩(神戸)で、設定されていた世界記録基準1時間21分30秒を大きく上回る1時間20分34秒をマークし、初代の世界記録保持者となりました。このとき2位だったのが今回4位の吉川絢斗(1時間20分50秒)です。今回の銀メダルは、ジャカルタ大会に続き2大会ぶり2個目のアジア大会メダルとなりました。
主な国際大会成績
③なぜ金に届かず、それでも銀を守れたのか(考察)
ここからは、報道された事実をもとにした筆者の考察です。
1. ペナルティがなくても金には届かなかった
山西の1時間28分01秒から待機の2分を単純に差し引くと約1時間26分01秒。それでも石の1時間23分32秒とは約2分半の差があります。つまり勝負を分けたのはペナルティだけではなく、9km過ぎからの石のペースアップにあったと見られます。世界記録(1時間20分34秒)より7分以上遅い展開だったことからも、今回は記録ではなく駆け引きのレースだったといえます。
2. 「追うか、待つか」の迷いがフォームに出た可能性
本人が「追いかけていくかどうかでバタついた」と語っている点は重要です。競歩はロスオブコンタクト(両足が同時に地面から離れる)やベントニー(膝の曲がり)を審判が目視で判定する競技。ペースの上げ下げを繰り返す局面では接地のリズムが乱れやすく、判定に引っかかりやすくなると考えられます。コースのアップダウンに触れた発言からも、起伏での歩型維持が課題だったと見られます。
3. 「あと1枚で失格」からの立て直しは経験の産物
3枚目の警告を受けた後に4枚目を回避しながら2位を守るには、スピードを落としすぎず、しかし歩型を最優先に切り替える判断が必要です。世界選手権を2度制し、国際大会で審判の目にさらされてきた山西だからこそ、「2位をキープするのが使命」と気持ちを切り替えられたのではないでしょうか。後続の吉川との差(1分27秒)を保ち切ったことが、その立て直しの確かさを示しています。
POINT
タイムの速さ(世界記録)と、選手権で勝ち切る力は別物。記録会型のレースで世界最速の選手でも、駆け引きと判定が絡む選手権では歩型の安定が最後の鍵を握る——今回のレースはそれを象徴していると見られます。
④日本陸上界にとっての意味
まず、地元開催のアジア大会で陸上競技の開幕種目からメダルを獲得したことは、残り6日間を戦う日本代表に勢いを与える結果です。一方で月刊陸上競技の報道によれば、中国はこの種目でアジア大会6連覇。19歳の新鋭が世界記録保持者を4分29秒差で破ったことは、アジアの競歩の勢力図がなお中国中心であることを改めて示しました。
また、20kmからハーフマラソンへと距離が変わった初年度に、日本勢は2月の日本選手権で世界記録を含む好記録を連発しました。そのスピードを選手権の駆け引きの中でどう発揮するか——今回の「悔しい銀」は、今後の国際大会に向けた日本競歩陣の明確な課題を浮かび上がらせたといえそうです。
⑤「歩く」ことから始める人へ
競歩は「歩く」という誰もができる動作を突き詰めた種目です。トップ選手のように1kmを4分前後で歩くのは別世界の話でも、ウォーキングやジョギングは今日から始められます。そして一人では続きにくい運動も、一緒に歩いたり走ったりする仲間がいれば、ぐっと習慣にしやすくなります。
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よくある質問
Q. 競歩の「警告」とは何ですか?
A. 競歩では、常にどちらかの足が地面に接していること、前脚は接地から垂直になるまで膝を伸ばしていることがルールで定められています。これに違反していると審判が判断すると警告(レッドカード)が出され、一定枚数に達するとペナルティゾーンでの待機、さらに重なると失格になります。
Q. ペナルティゾーンとは?
A. 警告が規定の枚数に達した選手が、コース脇に設けられたエリアで一定時間待機しなければならない制度です。今回の男子ハーフマラソン競歩では、3枚目の警告を受けた山西選手と吉川選手がペナルティを科され、山西選手は2分間の待機を課されたと報じられています。
Q. なぜ20km競歩ではなくハーフマラソン競歩なのですか?
A. 世界陸連(World Athletics)が2026年から国際大会の実施種目を20kmからハーフマラソン(21.0975km)に変更したためです。山西選手は2026年2月の日本選手権でこの種目の世界記録1時間20分34秒を樹立しています。
Q. 名古屋アジア大会の陸上競技はいつまで?
A. 陸上競技は2026年9月23日から29日までの7日間、パロマ瑞穂スタジアムなどで行われます。日本代表の結果は日本陸上競技連盟の公式サイトで随時更新されています。
出典
・月刊陸上競技(月陸Online)「山西利和が2大会ぶり銀!陸上開幕種目・ハーフマラソン競歩で日本勢メダル『第1号』/名古屋アジア大会」(2026年9月23日)
・スポーツニッポン「【アジア大会】世界記録保持者・山西利和は銀メダル『悔しいレースでした』陸上ハーフ競歩」(2026年9月23日、Yahoo!ニュース配信)
・時事通信「山西利和が銀メダル ハーフマラソン競歩―愛知・名古屋アジア大会」(2026年9月23日)
・日本陸上競技連盟「【日本選手権ハーフマラソン競歩】山西が連覇&ハーフマラソン競歩でも世界記録保持者に!」(2026年2月)
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